定期通信 第50号

定期通信第50号は、2021年度講演会の聴講録です。講演の概要を簡潔に取りまとめ、数枚のスライドを挿入して、ご講演をいただきました朝倉宏先生と道野英司先生に監修をしていただいたものです。会誌「食の安全と微生物検査」第11巻第1号とあわせてご覧ください。

講演1
鶏肉等におけるカンピロバクター汚染低減対策とその有効性評価について
朝倉 宏 国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部長

近年発生する食中毒のうち、カンピロバクターによる割合はサルモネラのように大きく減少することなく下げ止まりの傾向が続いている。これは2011年の生食用食肉の規格基準、2012年の豚肉の生食提供禁止措置以降、鶏肉生食志向の傾向が増加に影響していると考えられる。

カンピロバクター食中毒の原因菌の特徴としては、

  • 家畜等の腸管内に生息し食肉や飲料水等を汚染すること
  • 潜伏期間が1~7日と比較的長い、
  • ギランバレー症候群の先行感染症である

などが挙げられる。

鶏肉等におけるカンピロバクター汚染低減対策とその有効性評価について:スライド1

カンピロバクター食中毒を低減させるためには、生産段階のみではなく食品処理・加工・販売・消費の各段階において、それぞれ実行可能な衛生対策を講じることで総合的な制御を行う必要がある。

対策

  • 生産段階においては、2009年に食品安全委員会より取り纏められた「食品健康影響評価のためのリスクプロファイル」により、食鳥処理場での交叉汚染低減に向け、鶏群の処理順序を出荷段階で考慮すること。
  • 処理段階においては、食鳥処理は多岐にわたる工程からなるため、汚染箇所の発見や有効と思われる対策の設定を行う上で、工程を通じたカンピロバクター汚染の動態を把握すること。国内では次亜塩素酸ナトリウムを冷却槽に添加することが一般的である。
  • 販売・消費段階においては、鶏肉製品からは高い割合でカンピロバクターが検出されていることから、加熱調理の徹底ならびに交叉汚染の防止をすること。

有効性の評価

  • 生産段階においては、カンピロバクター定量試験法が国内では標準化されていないため、NIHSJ-35-ST3のワークフローより比較を行った。
    1. 適用範囲を鶏肉とした場合、採材部位の比較の結果からみて、皮部分(外表)が検体として適切であった。
    2. 乳剤調製法(希釈倍率)の比較の結果から、乳剤の希釈率は通常10倍であるが、夾雑菌のコンタミネーションが懸念されたものの、5倍乳剤調製の方が感度の高い結果を得ることができた。
    3. 平板培地への塗抹量の比較の結果から、平板培地への塗抹量は世界的には3枚法が多いが日本では4~5枚法が夾雑菌の遊走等もなく有効とされた。
    4. 選択分離寒天培地の成績比較の結果から、選択分離培地ではCCDAが有効であり、並行してプロティカルユーズの高い酵素基質培地の使用も検討されている。
  • 処理段階においては、食鳥中抜きブロイラーと体に対する各種殺菌剤処理による微生物汚染低減効果の測定の結果、過酢酸製剤や亜塩素酸ナトリウムなど酸性物質に浸漬することで水道水に比べ有意な低減を示した。
  • 販売・消費段階においては、リスク評価対策の結果、国民全体としては食鳥処理場での区分処理により、年間感染者数は56.0%に低減。生食割合の低減に加え、食鳥区分処理と農場汚染率の低減の組み合わせが最も効果の大きな対策と想定された。

鶏肉等におけるカンピロバクター汚染低減対策とその有効性評価について:スライド2

今後の課題

カンピロバクター食中毒を減らすためには、以下のような課題がある。

  • 生産段階では、迅速な検出手法の開発に加え、飼養衛生管理やバイオセキュリティをさらに徹底し、汚染状況を統一的な方法により定量的にモニタリングすること。
  • 処理段階では、生食用食鳥肉の処理方法を平準化させ、一般衛生管理及びHACCPシステムによる管理の適切な実施を確認すること。また、カンピロバクター汚染動態の工程を追って定量的にモニタリングし、その成績を根拠として、汚染低減に有効な対策を設定し評価すること。
  • 販売・消費段階では、流通段階での表示、飲食店での掲示等により加熱の必要性・重要性を伝えること。また、加熱用の食鳥肉は生食または加熱不十分では喫食しないこと。

鶏肉等におけるカンピロバクター汚染低減対策とその有効性評価について:スライド3

パネルディスカッションQ&A

Q1 国内で利用可能な添加物または食材で外国での利用可能の有無を聞くにはどこの部署に聞けばよいか。

A1 農林水産省や農水局、輸出国規制対策課などで対応している。

Q2 カンピロバクターの定量を行う際、ボルトン培地とブレストン培地で同じ鶏肉の検体でも増殖等に差は出るのか。

A2取り扱う検体が何かによる。損傷菌にはボルトン培地が良いとされている。だがESBL産生菌等の夾雑菌の抑制ができることなどから、現段階ではプレストン培地が標準として採用されている。対象とする試験検体において優位性のある方法を採用するのがよい。

Q3 鶏肉のどこからカンピロバクターは入るのか。環境等などからなのか。

A3 昆虫や野鳥が媒介すると考えられている。特定の侵入経路のエビデンスは今のところない。

Q4 畜産物モニタリングとインポートトレランスの申請で事業所は具体的に何をすればよいか。

A4 国でモニタリングプランを立てサンプリング協力をしていただき、検査機関に送付する。よって各事業所は補助金の申請、支払い、サンプリングのみ行えばよい。


講演2
農林水産物・食品の輸出促進について
- 輸出先国の安全規制への対応 -
道野 英司
農林水産省 大臣官房審議官 併 食料産業局、厚生労働省医薬・生活衛生局

農林水産物・食品の輸出の現状

農林水産物・食品輸出額は8年連続増加している。昨年もコロナ禍であったが1.1%増で健闘した。伸びた要因は、中国がコロナ禍からの回復が早かったことなど東アジア、東南アジアのマーケットの回復である。今年の状況を見るとアメリカを含め北米もかなり良くなっており、ヨーロッパが回復してくれば、1兆円の目標が見えてくる。

輸出品の内訳を見てみると、その4割が加工食品で、平均6割ぐらいは国産原料が使われているとのデータもある国産の輸出に貢献している。輸出が増えている品目は日本酒、ウイスキーのほか、牛肉、鶏卵などで、コロナ禍を反映して、昨年から家庭用製品も輸出が増えている。水産物はホタテ貝が輸出の柱になっており、養殖ブリがすしネタとして伸びている。

主な輸出先としては、香港、中国、アメリカ、台湾となっている。ただし、香港は香港経由で大陸にも入っているようである。

輸出戦略の概要

輸出拡大実行戦略では、輸出重点品目を決め、品目ごとに輸出に取り組む産地を指定して、重点的に支援していくこととし、重点品目と登録産地の一覧を公表した。現在の輸出の多くは国内市場向けの余剰を海外に売ろうというもので、日本産は、高品質・安全であり、海外ではそれを欲しがるという思い込みがある。海外の規制や消費者ニーズに対応した産品が確保できないことなどの課題を克服し、さらに相手国のスーパーマーケットの棚の確保、また利益を農家が出せる農業政策にしていく必要がある。

また、輸出先進国の例として、米国では農務省の外郭団体として米国農産物貿易事務所(ATO)があり、主要消費国に事務所を設置して農務省の職員が出向し、プロモーションや情報収集を行い、マーケティングをしっかりとやっている。ノルウェーでは、日本に向けてすしネタの養殖サーモンのプロモーションをやっている。このような輸出先進国の例を参考に日本もプロモーションを強化していく。

農林水産物・食品の輸出促進について:スライド4

輸出促進法の概要

政府が一体的に輸出に取り組むことが法整備の主目的。農林水産物・食品輸出本部を設置し、農林水産大臣を本部長として、総務大臣、外務大臣、厚生労働大臣などが本部員。輸出戦略等もこの下でやっていく。これまで各省がばらばらにやってきた輸出証明発行、区域指定、施設認定の手続きを整理・統合し、輸出促進法に基づく手続き規程に一本化した。また、輸出手続きが煩雑であったので、輸出証明書発給システムの整備(オンライン化)や証明書受取場所の拡大を進めている。

輸出促進法に基づき、農林水産物及び食品の輸出の促進に関する実行計画を作成した。そこには、放射性物質規制関係、食品添加物規制関係、食肉関係、水産関係、輸出産地関係、品目団体関係などが含まれている。

農林水産物・食品の輸出促進について:スライド5

2国間協議の推進

東京電力福島第一原発事故から10年以上経つが、いまだに規制している国・地域がある。事故当初は54か国・地域が規制を行っていたが、現在は14に減っており、政府間交渉に取り組んでいる。放射性物質に関わる輸入規制について、最も厳しいのは中国で、韓国、台湾が続く。動物検疫、植物検疫に係わる協議もあり、輸出規制国・地域への解禁要請や協議には、引き続き関係省庁と連携して取り組む。食品添加物では、日本では使用している紅麹色素やクチナシ青色素等既存添加物は欧米では認められておらず、使用している食品は輸出できない。

クチナシ青色素は国費で安全性試験を行い、FDAに登録申請し、今年、申請できた。紅麹色素については、今年、本格的に安全性試験を行っているが、食品業界には安全性の確認された国際的にも通用する添加物への切り替えをお願いしている。

国内対応

動物性食品はリスクが高く、厳しい規制がある。主要国向け輸出施設認定としては、肉類には、国内制度との関係上、厚労省と都道府県等の対応となっている。一方、水産品については、厚労省以外に登録認定機関、農水省、都道府県等で対応とし、厚労省の負担を軽減している。

対米などの輸出食肉の施設認定取得の支援については、5者協議(事業者、自治体、厚生労働省(本省、地方局)、農林水産省)の仕組みを導入し、より早期の認定取得が可能となっている。

輸出に当たっては、輸出先国の規制との同等性確保が課題であり、相手国は国内管理について国が責任を持つことを求めてくる。米国の牛肉の例では、現在の畜場法の施設や管理の基準でクリアできる部分もあるが、不足する部分があり、基準の上乗せが必要である。

次は人道的取扱い、アニマルウェルフェアの問題がある。持続可能性を追求・高めることが国連約束となっており、2030年までに色々な対応が求められている。特にヨーロッパにおいてアニマルウェルフェアが突出して進んでいる。搬入、係留、とさつなど生きているときの苦痛を極力減らす考えで、日本では鼻環の問題が指摘され宿題になっている。

三番目に残留物質等モニタリングである。米国向けは農薬、動薬、汚染物質、さらにEU向けは禁止薬物が多く、微量分析が求められる。また、検査施設にもISO17025の認証が要求される。具体的には米国では使用可能な農薬、動物薬を対象とし、禁止薬物としてDESやクロラムフェニコールなどを加えれば良い。EUではその他にステロイドやホルモン、カビ毒などがプラスされ、日本では対応していないレベルの微量分析を求められる。

相手国の要求に従って施設認定を行うと、相手国から査察が数年に一度行われる。指摘事項は一般衛生管理の清掃や整理整頓などで輸出施設でもこうした点が指摘されているのが実態である。HACCPシステム関係の指摘もあり、基本的な指摘が多く、危害要因分析とフロー図がマッチしていない、CCPモニタリングに使用された温度計の校正記録が特定できない等特別な指摘ではない。また、と畜検査、人道的取扱いについての指摘も出ている。

現状の米国及びEU向け輸出牛肉取扱い施設については、バランスよく各地区で認定されてきている。牛肉は輸出で相当期待が大きく、額も増えている状況であり、引き続き支援をしながら認定していく。

EU向け水産食品については、フードチェーンに沿って、施設、船、養殖場の認定を国が行うルールになっており、それぞれに衛生要件がある。衛生管理の基準において、特に養殖業では残留物質のモニタリングが要求されている。欧州委員会による査察では、HPに各国のレポートが公表される。結構厳しい評価が書かれている国もある。また、EUの輸入時検査では、養殖ブリでテトラサイクリンの検査をやっていて、検出感度が高く、日本の試験法では検出されなくても、検出される例がある。日本側で原因調査を行い、改善策を取るが半年ぐらいは対処に掛かる。

農林水産物・食品の輸出促進について:スライド6

新たな規制への対応

輸出水産食品取扱い施設の認定要件等について、各国でHACCP導入が進んでいる。中国においてもHACCP要求に切り替わり、さらに他に具体化された衛生要件があり、細かくチェックすることが要求され、中国の認定基準の確認が各地で進んでいる。要求事項はほぼ食品衛生法の規制と変わらないので、国内基準適合も視野に計画的に改善する必要がある。中国は経済的には非常に重要な貿易相手であるが、他に不当な要求もあり、欧米など諸外国と連携して、きちんと跳ね返していかないといけない。

次に欧州の新たな混合食品規制である。ソーセージ、ハムなどの食肉製品についてはEUも日本も原料が自国の基準に合致しないといけないとしている。今回のEUの要求は、だしとか、スープとか、一般の加工食品にEU基準に合った動物性の原料しか使えないとしており、動物検疫所や農水省で公的証明書を発行する状況になっている。

農林水産物・食品の輸出促進について:スライド7

輸出環境整備、輸出対応施設整備への支援

最後に予算関係では、施設の整備、様々な食品安全規制への対応強化がある。輸出の拡大に必要な加工施設等の新設、改修、機器の導入支援などがある。

環境整備推進事業では、手続きの円滑化を都道府県、登録検査機関等、検査機器の導入、証明書の発行など体制整備の支援をしている。生産段階での食品安全規制への対応強化で輸出施設のHACCP等認定などの経費も支援もしている。国際的認証取得・更新にも支援が出ている。およそ100億円に近い施設設備の支援を行っている。

パネルディスカッションQ&A

Q1 香港が中国に返還されたことにより、香港の規則はどうなる?

A1 香港と中国の関係だが、報道されているように香港政庁に対して中国の北京政府からの関与が大きくなってきている。一方で、食品の安全規制に関しては、まだ香港の独立性が強いのが現状である。おそらく、香港の場合は世界のトレードセンターという非常に大きな経済的メリットがあるので、そこは中国流に上手く使い分けていくのではないかと思う。マカオも同じような状況であるが、いずれの都市も一国二制度のなかで、少なくとも貿易とか経済は動いているのが現状である。例えば、牛肉の輸出に関しても、中国とは協議中であるが、香港は第一の輸出先。放射性物質規制についても、中国は10都県輸入停止(新潟の米は除かれている)、香港はそこまでの措置はとっていない。ということで、経済面は使い分けされるのが今の対応と思われる。

Q2 国内で利用可能な添加物若しくは食材で外国でも利用可能かどうかを確認するためにはどこの部署にお聞きすればよいのか?

A2 輸出が可能かどうかに関しては、農水省のHPに各国の規制を整理したものがあるので、先ずはそれを見ていただきたい。また、一元的な相談窓口として地方農政局、本省だと輸出国規制対策課。全てその場でお答えするのは難しいと思うが、調べたり問合せ先を調べたりできる。

以上

(更新:2021.8.22)

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