定期通信 第47号

定期通信第47号は、2020年11月26日に中央区立日本橋公会堂で開催されました「2020年度講演会:改正食品衛生法施行に伴うHACCP制度化の動向と自主衛生管理における微生物検査の考え方」の聴講録です。ぜひご覧ください。

講演1: 改正食品衛生法施行に伴うHACCP制度化の動向~行政の立場から~ / 三木 朗 先生
講演2: HACCPなど自主衛生管理における微生物検査の考え方~国際整合性を考慮した具体的な進め方~ 五十君 靜信 先生

講演1
改正食品衛生法施行に伴うHACCP制度化の動向
~行政の立場から~
三木 朗 / 厚生労働省 医薬・生活衛生局 食品監視安全課 課長

食品衛生法等の一部を改正する法律(平成30年6月13日公布)の概要

平成30年6月に公布された改正食品衛生法は15年ぶりの改正であり、具体的内容としては以下の7点が含まれている。

  1. 広域的な食中毒事案への対策強化
  2. HACCPに沿った衛生管理の制度化
  3. 特別の注意を必要とする成分等を含む食品による健康被害情報の収集
  4. 国際整合的な食品用器具・容器包装の衛生管理の整備
  5. 営業許可制度の見直し、営業届出制度の創設
  6. 食品リコール情報の報告制度の創設
  7. 乳製品・水産食品の衛生証明書の添付等の輸入要件化

HACCPに沿った衛生管理の制度化の全体像

HACCPに沿った衛生管理の制度化については、従来の食品の種類や施設規模等にかかわらず一律の衛生管理基準の順守を求める制度を改め、国際基準であるHACCPに沿って個々の事業者が自ら衛生管理計画を作成して記録する、衛生管理を「見える化」して取りくむこととしている。

全ての食品等事業者が衛生管理計画を作成することを原則としているが、大規模事業者、と畜場、食鳥処理場には、コーデックスのHACCP7原則に基づき計画を作成・管理する「HACCPに基づく衛生管理」を、小規模な営業者(食品取扱者が50人未満)等には各業界団体が作成する手引書を参考に、簡略化されたアプローチによる衛生管理を行う「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」による対応を可能としている。

営業者が実施すること

営業者が実施すべきことは以下のような内容である。

  1. 「一般的な衛生管理」および「HACCPに沿った衛生管理」に関する基準に基づき、衛生管理計画を作成し、従業員に周知徹底を図る
  2. 必要に応じて、清掃・洗浄・消毒や食品の取扱い等について具体的な方法を定めた手順書を作成する
  3. 衛生管理の実施状況を記録し、保存する
  4. 衛生管理計画及び手順書の効果を定期的に検証し(振り返り)、必要に応じて内容を見直す

衛生管理計画策定のための手引書

厚生労働省では、食品等事業者団体が作成した衛生管理計画策定のための手引書について、食品関係団体からの事前相談、情報及び意見交換を行い、食品衛生管理に関する技術検討会でその内容を確認した後、都道府県への通知および公開をしている。

手引書は主に以下に掲げる内容から構成されている。

  • 対象業種・業態、食品又は食品群
  • 対象となる施設の規模、従業員数
  • 対象食品、食品群の詳細説明・工程
  • 団体がまとめた危害要因分析の内容
  • 衛生管理計画の様式と記載例
  • 記録の様式と記載例
  • 手順書
  • 振り返り
  • 記録の保存期間

現在、製造・加工に関する74業種、調理・販売・保管に関する21業種について、厚生労働省のホームページで公開している。各営業者はこの手引書を参考にHACCPに取り組んでいただくほか、保健所も手引書に基づき助言・指導等することとしている。

営業許可制度の見直し

昭和47年以来となる営業許可制度の見直しでは、現在の食中毒のリスク及び食品産業の現状などを考慮して、許可対象業種の改廃、統合などを行ったことに加え、HACCPに沿った衛生管理が原則として全ての食品等事業者に義務付けられたことを受け、営業届出制度を創設し、営業許可業種以外の食品等事業者も保健所に届け出ていただくことになった。

これにより、これまで行政で把握できていなかった食品等事業者についても食品衛生監視員による衛生管理に関する指導や助言が行き届くようになることが期待される。 公衆衛生への影響度を考慮し、以下の3種に営業者を区分している。

  • 要許可業種:製造業、調理業、加工を伴う販売業等、32業種に再編
  • 要届出業種:温度管理等が必要な包装食品の販売業、冷凍冷蔵倉庫業等
  • 届出対象外:常温で保存可能な包装食品のみの販売等

以上

(更新:2020.12.24)

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講演2
HACCPなど自主衛生管理における微生物検査の考え方
~国際整合性を考慮した具体的な進め方~
五十君 靜信 / 東京農業大学・応用生物科学部 教授

食品衛生法等の一部を改正する法律(平成30年6月13日公布)の概要

2018年6月に公布された改正食品衛生法は、国際整合性をにらんだ大幅な改正であり、特に国内のフードチェーン全体に及ぶHACCPの制度化は、今後の食品のリスクマネージメントに与える影響は甚大であると思われる。

HACCPによる食品の衛生管理は、食品等事業者自らが食中毒菌汚染や異物混入等の危害要因(ハザード)を把握したうえで、原材料の入荷から製品の出荷に至る全工程の中で、それらの危害要因を除去、または低減させるために特に重要な工程を管理し、製品の安全性を確保しようとする手法である。食品等事業者には製造者責任が問われるという国際的な考え方に基づいて、自らが実施する自主衛生管理であることがポイントであり、HACCPプランはそれぞれの事業者が使用する原材料、製造方法等に応じて自ら策定し、実行するため、従来の一律の衛生管理基準による手法よりも、合理的で有効性が高いと言える。よって、従来型の最終製品の基準適合性を重視した一般衛生管理による製品製造時に行っていた微生物検査の考え方を、そのまま活用することは適切とは言えない。

HACCPなどの工程管理では、科学的な視点からハザードをどのような工程でどのように管理するかを検討し、実施するため、理論的にハザードとなる病原微生物などは工程管理により制御される。したがって、これまで行っていた最終製品を対象とする病原微生物に対する検査を行う必要はほとんど無くなるが、微生物検査の必要は全くないのかというとそうではない。HACCPが設計どおりに機能しているかの検証を行う必要がある。

つまり、工程管理の「正当性」を検証していくために微生物検査が必要となるという考え方である。

食品における微生物検査に対する国際的な考え方に対応していかなければ、微生物検査を行ってもその結果の信頼度は低く、検査結果の正当性が失われてしまう。食品における微生物検査は、微生物に関しては「いないこと」を証明することが大切である。すなわち、非常に低いレベルの微生物がいた場合、確実に検出される状態で検査を行って、検出されないということが重要である。

食品衛生における微生物検査は、用いる試験法が厳密でなければならない。試験法が正当であることは、国際的にはISO 16140に示されており、妥当性確認という手法でこの正当性を示すことになる。

また、検査が正しく行われるための「実施する人の『技術』」、「管理体制(内部精度管理)」、「実際に期待される検査結果が得られているかの『検証』(外部精度管理)」、が必要である。

このように、国際整合性のある食品の微生物検査には、妥当性が確認された試験法を用いることはもちろんのこと、検査を行う環境の整備とその管理体制が求められることになる。

実際の検査の運用では、サンプリングプランに従って試験結果から製造を管理することが勧められる。サンプリングプランとは、食品の微生物汚染は均等に分布していないことを考慮して、統計学的にどのような検査を行えば正確な汚染状況を評価できるか、得られた結果についてどのような判断をしたらよいか、を体系化したものであり、2階級法ならびに3階級法がある。

2階級法とは、ランダムにn個の検体を採取し、基準値mを超える検体がc個まではロットとして合格とする方法である。

3階級法では2階級法の考え方に加え、条件付きで合格となる部分が加わる。つまり、条件つき合格と判定する基準mと、それ以上の菌数は1検体でもあれば不合格とする第二基準を用いる方法である。

また、“ムービング・ウィンドウ”という考え方も並行して管理すると良い。ムービング・ウィンドウとは、比較的大きなサンプル数n個を一定の期間、決められた期間、決められた頻度で採取して検査し、最新の結果が加わるたびに最古の検査結果をn個の中から削除し、新たに得られた範囲(ウィンドウ)にあるn個の中で、基準値を超えるものがc個以内であれば、その工程は適切に管理されているというものである。

HACCPなどの自主衛生管理における微生物検査は、HACCPが設計どおりに機能しているかの工程管理の正当性を検証していくために必要となる。生菌数や衛生指標菌などの通常の食品で検出可能な菌を対象とし、その菌数レベルをもとに3階級法のサンプリングプラン、ムービング・ウィンドウを活用し、PDCAサイクルを回すことで、HACCPプランを改善していくことが期待できると思われる。

以上

(更新:2020.12.24)

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